灰孝本店と任天堂の基礎を築いた山内房治郎(山内一正さん)

最終更新日時: 2017-12-13 16:22:52

山内房治郎は,明治元年に福井宗助(京都市下京区)の長男として出生した。 明治5年に山内猶七の養子として入籍し,明治14年に山内家を相続した。その後明治19年に本田コマと婚姻し,貞(明治20年長女)が生まれた。福井家は代々土木建築業を家業としており,房治郎も福井家の土木建築業を暫く手伝っていたが,明治18年に灰孝本店の前身である「灰岩」の仕事を手伝うようになった。

この年は,京都の誇りである琵琶湖疏水の大工事が起工された年で,房治郎の親元もこの工事に土木建築を請負っていた。この工事は大量のセメントを必要とし,房治郎は「灰岩」として,福井家や大蔵組 (現在の大成建設) を通じて相当量のセメントを納入した。灰岩は,初田岩次郎が,耳塚通りにあった土や石灰を販売する「大源」と称する店を買取り「土岩」と改め,明治5年に父 (龍次郎)を助けて,今の灰孝本店がある正面高瀬角(下京区西木屋町通り正面下ル八王子町)に転居し,石灰共々本格的にセメント販売に着手し,明治7年には舶来品セメントを扱うようになった。灰岩は,西洞院に上灰岩を,正面高瀬角は灰岩本店とした。

灰孝本店写真
明治18年灰岩本店(初代岩次郎)から引継いだ灰孝本店(山内房治郎)の大正初めの社屋(京都市下京区正面通高瀬川西入ル 現在の児童公園跡)
灰孝東写真
灰孝本店の東側 高瀬川正面橋から社屋倉庫に積んであるセメント樽が見られる。出典:100年前の高瀬川を写真で見る。(木屋町正面付近)京都日出新聞発行誌より(現京都新聞の前身)
水路閣写真
京都南禅寺疏水に日本最初のセメントを灰孝本店より京都府へ納入する。(明治18年)

疎水工事が始まった頃は,主要材料であるセメントのメーカーは,国内では小野田セメント社と浅野セメントの2社のみで,年間4千樽足らずしか製造出来ず,工事に必要な3万樽を賄うことは到底出来なかったので,半数以上は外国製品 (主としてイギリス)に頼っていた。セメントはこの時代は相当貴重な材料であった。房治郎は灰岩本店でのセメント販売に情熱を燃やし,小野田セメントの製品を一手に扱っていた三井物産の上層部と懇意になり,明治の偉大な大事業である琵琶湖疏水の工事に小野田セメントを納入すべく奔走した。そして相当量の樽入セメントを山口県から舟に乗せて大阪の港に着け,淀川から鴨川そして高瀬川と舟運を利用し京都の木屋町正面にある正面高瀬川米浜の港に陸揚げした。そして,樽入セメントを馬車や牛車に乗せて疎水の現場に納入した。この努力が認められ,三井物産小野田セメント京都代理店となった。

山内任天堂写真
明治22年創業当時の花札類製造元「山内任天堂」の初代社屋(京都市下京区正面通り二の宮町)

また,房治郎は事業意欲の旺盛な人だったので,明治22年正面通り二の宮町(現任天堂の旧社屋)に花札類の製造業を起こした。かるたの「任天堂」の始まりである。また,房治郎はアイデアマンであった。当時の煙草王と呼ばれた村井吉兵衛と提携して,煙草の景品に花札を付け,その販売網で全国展開した。これが相乗効果を生み煙草も花札もよく売れた。明治37,38年の日露戦争におけるロシア人捕虜をなぐさめるために「山内任天堂」が製作したトランプが国産化の最初であるという業界神話があるが,アメリカのUSプレイング社の資料館に明治36年に製作された「山内任天堂」のトランプが発見された。アメリカに相当数輸出していたので新しいかるたトランプの製作は明治36年が正しい。

明治40年には貞(長女)に金田弥兵衛の二男積良(後の任天堂2代目社長)を養子として迎へ,君(明治40年長女)と孝(明治42年二女)が生まれた。房治郎は積良と協力して灰岩本店のセメント販売と,任天堂のトランプ,かるたの製造販売に奔走した。大正5年には,房治郎が灰岩に相当貢献したので, 灰岩の引継ぎを前提に初田岩次郎の所有であった正面高瀬角の土地の譲渡を受け,灰岩合資会社が別の場所 (疎水東川端上ル鞘町七条下) に設立された。しばらくの間は引き続き灰岩本店として商売を続けた。大正9年には,灰岩本店とは別の場所(西高瀬上ノロ)に,孝の名前を取って合名会社灰孝本店を設立し,大正10年に灰孝本店として正面高瀬角に店を移した。大正14年には,灰孝本店は灰岩を完全に継承した。こうして任天堂は君へ,灰孝本店は孝へ受け継がれ,君から中興の祖と云われた博 (任天堂3代目社長)に任天堂は受け継がれ,灰孝本店は孝から康正へ,そして現社長の一正 (房治郎から5代目)へと受け継がれ今日に至っている。

山内 一正(株式会社灰孝本店 代表取締役社長)

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